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言語が違えば、世界も違って見えるわけ

『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』 ガイ・ドイッチャー/椋田直子 訳(インターシフト) 言語が話し手の心に影響するやり方が、言語によって異なるとすれば、それぞれの言語が話し手になにを考えるのを許すかによるのではなく、それぞれの言語の話し…

倒壊する巨塔・下

『倒壊する巨塔・下』 ローレンス・ライト/平賀秀明 訳(白水社) ただ、「果てしなき追跡作戦」が残した最大の痛恨事は、ビンラディンというテロリストを、抵抗のシンボルに祭りあげてしまった点だろう。しかもそのシンボル性たるや、ムスリム世界に留まら…

ピアノ・ノート

『ピアノ・ノート』 チャールズ・ローゼン/朝倉和子 訳(みすず書房)(12/22) 金属と木材と象牙(今ではプラスチックのほうが多いが)の組み合わさったピアノという楽器、もはや恐竜と化したコンサート・グランドピアノという楽器に身体的に触れていたいとい…

読まず嫌い

『読まず嫌い』 千野帽子(角川書店) だから物語メガネとは、小説脳だけをさすのではない。物語とは「安定したものの見かた」の基礎になるもの、なのだ。これがなければ人は生きていけない。 (p38)読まず嫌いの理由付けって、皆一緒なんだなと思った。や…

日本人の戦争/勝者の混迷

『日本人の戦争 作家の日記を読む』 ドナルド・キーン/角地幸男 訳(文藝春秋)(10/27) 第二次世界大戦中の作家の日記から当時の日本人の意識を知ろうというのが作者の意図。公的な発表文書ではなく、後から手を入れたり後に発表を想定していたりということ…

『ヨーロッパの100年 上』から。 「わたしは自分が呪われているのではないかと思う。この戦争を愛しているからだ」。ウィンストン・チャーチルは一九一五年の初めに娘のヴァイオレット・アスクィスあてにそう書いた。「どの瞬間にも何千人もの命が揺さぶられ…

今読み中の『ヨーロッパの100年』から。 ヨーロッパは――旅をした一年の間に気がついた――時間の中を簡単に行き来できる大陸だ。二十世紀のすべての段階がどこかでいまも繰り返されている。 (上、p11) イギリスほど、魅惑的な不品行が新聞を賑わす国はない。…

やんごとなき読者/世界文学は面白い。

『やんごとなき読者』 アラン・ベネット/市川恵里 訳(白水社) 「本というものはすばらしいですわね」女王が話しかけると、副総長は同意した。「ステーキではありませんが、本は人をやわらかくしますね」 (p134)エリザベス二世女王が読書にハマったら――とて…

『みみお』 鴻池朋子(青幻舎) 展覧会で原画を見て、一目惚れして買ってきた。先に原画を見てしまっていると、印刷されて本になったものは多少インパクトが薄れてしまうけど、「雪どけのしずく」と、狼のオーロラと、たんぽぽの綿毛のような雪が降る絵が忘…

仮想儀礼 上

『仮想儀礼 上』 篠田節子(新潮社) 「いや、違います。神の概念が、人を支配する。確実な力を持っている。これは象徴的な出来事ですよ。桐生さん、何かが変わってきたんですよ。日本人が気づいてないだけだ。世界は宗教の時代に入った。今までみたいな、社…

世界のシワに夢を見ろ!

『世界のシワに夢を見ろ!』 高野秀行(小学館文庫) アメリカ化が進むと、世界はのっぺりする。 (p12)車中の友……には不向きだった。面白過ぎて震える…!

杉浦日向子の食・道・楽

『杉浦日向子の食・道・楽』 杉浦日向子(新潮文庫) 杉浦日向子が呉服屋さんの娘というのは読んで納得でしたが、ロック好きでオーディオマニアだとはついぞ知りませんでした。奥の深い人だ。以下、座右の銘にしたいと思います。 正しい酒の呑み方七箇条 一…

カトリーナが洗い流せなかった貧困のアメリカ

『カトリーナが洗い流せなかった貧困のアメリカ』 マイケル・エリック・ダイソン/藤永康政 訳(Pヴァイン・ブックス) 貧困に身を削られ苦しむ者が存在するのは、ある面では、公共政策によって社会的に選択されたためである。貧困者の数や貧困期間の長さを決…

『宿屋めぐり』 町田康

俺には俺の人生があるのだ。それはけっこう駄目な人生だが。 (講談社版、P92)鋤名彦名とぐるぐるしている。こっちもけっこう駄目な人生だ。

コレラの時代の愛

『コレラの時代の愛』 G・ガルシア=マルケス/木村榮一 訳(新潮社) 《うちの息子の病気はたった一つ、コレラなのよ》 (p317)不敬な本とか紀州な本とかを並行読みしながら、通勤と昼休みにちまちまじわじわ読んでました。読み終わって深い満足感。 十九世…

紀州

『紀州 木の国・根の国』 中上健次(角川文庫) 『不敬文学論序説』で言及されていて興味を引かれたので読んだ。 被差別部落のことを現実問題として知ったのは、大阪の大学に行ってからだった。入学してすぐに、構内の掲示と文書での連絡で、出身地による差…

ペルセポリス1

『ペルセポリス 1・イランの少女マルジ』 マルジャン・サトラピ/園田恵子(バジリコ株式会社) 映画も良かったけど、原作の漫画はさらに数段中身が濃い。しかしマルジとその家族は呆れるほどパンクな人々だ。それでいて、シンプルなラインのイラストに添え…

不敬文学論序説

『不敬文学論序説』 渡部直己(太田出版) ゆっくり感想を書く時間が取れないので、気になる部分を取り急ぎ抜書き。全編を通じて本書の問題意識は冒頭のこれにつきる。 小説は原則としてあらゆるものを如何ようにも描きうる。無際限にして野放図なその欲望こ…

 虚構まみれ

『虚構まみれ』 奥泉光(青土社) 昔から私の作家の好みは話のストーリーよりも文体やスタイルそのもので、ぶっちゃけその人の文体/スタイルで読めるならストーリーもジャンルもどうでもいい、という性質なのだが、その意味でスタイルというものに非常に敏…

ラナーク

『ラナーク 四巻からなる伝記』 アラスター・グレイ/森慎一郎 訳(国書刊行会) わたしがそこから得た教訓はこういうものだ。つまり、叙事詩というジャンルは韻文にかぎらず散文でも書けるし、その中であらゆるジャンルを組み合わせることができる―――ありふ…

バベットの晩餐会

『バベットの晩餐会』 イサク・ディーネセン/桝田啓介 訳(ちくま文庫) イサク・ディーネセンはアイザック・ディネーセンで、カーレン又はカレン・ブリクセンの英語圏でのペンネーム。どうも日本では音訳が定まっていないらしい。 前に運命綺譚を読んだとき…

アフリカの日々

『アフリカの日々』 アイザック・ディネーセン/横山貞子 訳(晶文社) アイザック・ディネーセンがカレン・ブリクセンでブリクセン男爵夫人だったとは知りませんでした。デンマークのブルジョワの名家に生まれ、貴族と結婚して男爵夫人となり、ケニアに渡っ…

滝山コミューン一九七四

『滝山コミューン一九七四』 原武史(講談社) 読んでいると、どよーんと憂鬱な気分になるのに、思い当たるフシが多すぎて読むのが止まらないヤな本だ。実際、著者の小学校時代と私とでは十年弱ほどの開きがあるんだけど、ここまで極端ではないにしろ、班制…

現代の貧困

『現代の貧困 ワーキングプア/ホームレス/生活保護』 岩田正美(ちくま新書) 格差や不平等は、さしあたり「ある状態」を示す言葉である。つまり、ある社会においてAチームにいる人とBチームにいる人とに分かれているとか、高所得の人と低所得の人がいる、…

猫風船

『猫風船』 松山巖(みすず書房) 内田百輭と稲垣足穂を足して下町の大衆食堂に放り込んだ感じ。都市伝説のような掌篇集。「琉金」と「落とし穴」と「風邪はひけない」が気に入った。 でも時折思うのだ。あの穴で暮らしたらどんなに楽しく、快適だろうかと。…

サンキュー・ジーヴス

『サンキュー・ジーヴス』 P.G.ウッドハウス/森村たまき(国書刊行会) どんどんスラップスティック色が強く、というよりバーティーがどんどんイロモノになってきた。しかし気になるのが最後のほうの、バーティーのもとに戻りたいというジーヴスの発言だ。 …

美術の解剖学講義

『美術の解剖学講義』 森村泰昌(ちくま学芸文庫) 日本ではどちらかというとキワモノ扱いの著者ですが、この人の解説はとても筋が通っていてわかりやすい。そうか、あの衝撃的なセルフポートレートにはそんな意図があったのか、と目から鱗バリバリです。セ…

不良のための読書術

『不良のための読書術』 永江朗(筑摩書房) ここで推奨されている読書術のほぼ全てを何も考えずに実践しておった私は立派な不良ですか。およよ。不良っていうより、単にズボラなんだと思うのだが。いや、唯一抵触しているのが読書日記だな。(まさにコレ、…

旨いものはうまい

『旨いものはうまい』 吉田健一(グルメ文庫) 吉田健一も人様にお薦めされたのだが、うん、まあ、この人の趣味はちょっとアッパーで高尚すぎる。読んでいると庶民はいじけ出すので精神衛生上良くない。どうも小五月蝿くってすみません。 同じ食べ物のネタで…

植物診断室

『植物診断室』 星野智幸(文藝春秋) 寛樹は一瞬、大鳥居に飛行機が突っ込む映像を幻視した。すぐに、自分がいかにメディアの映像を擦りこまれているかを思って恥ずかしくなり、一人で苦笑いを浮かべる。だが次の瞬間には、その飛行機は飛ぶのも不思議なほ…