#2 『キャッチ=22』 ジョーゼフ・ヘラー/飛田茂雄 訳

キャッチ=22 下 (ハヤカワ文庫 NV 134)

日本では知られているとも売れているとも全く思えない本だけど、絶版にしない早川書房に敬意を表します。

ジョーゼフ・ヘラーはアメリカの作家。寡作で知られたこの作家の代表作にして最大の傑作。戦争小説の金字塔。この本も布教巡業中で手許になかったのですが、去年辺りに買いなおし、それもまた別のところに布教の旅に出ました。もう馬鹿と呼んで。
手許に本がないのでうろ覚えで書きます。大筋は合ってると思うけど、細部は間違っている可能性あり。悪しからず。

舞台は第二次世界大戦中、地中海の島にあるイタリア出撃のアメリカ空軍基地。出撃に出たくない主人公ヨッサリアンは、仮病を使って病院に入ったり上官にタックルを仕掛けて直訴したりとあの手この手で国に帰るべく、馬鹿馬鹿しくも涙ぐましい画策の限りを尽くす。本来、一定の出撃ノルマをこなせば国に帰れるはずなのに、そのノルマはどういう理屈だか一向に減らず、そればかりか増える一方。基地には様々な奇行に走る将兵が溢れ、なぜか一兵卒が軍事物資の横流しで財閥並みの権力を振るう。「こいつらみんな狂ってる!」と叫びたくなるエピソードの連続だ。

万事がスラップスティックに錯乱し放題な基地を支配するのは謎の軍律『キャッチ=22』。それはこうだ。正気である者は出撃に出なければならない、気が狂っていれば出撃は不可能なので国に返される。それを聞いたヨッサリアンは、自分は気が狂っていると主張する。だが自分で自分を気が狂っているという者は正気であり、正気であるならば出撃に出なければならない。ならば正気だと主張すれば、その者は正気なので出撃に出なければならない……
こうやって書くとわかりやすい話のように見えるけど、実際はそうでもないです。断章のような短いシーンが連なるこの小説は、主人公ヨッサリアンを中心に彼に絡むその他の人々を含む複数の視点で、時系列を徹底的にバラして構成している。その場面が現在進行形なのか回想なのか、あるいは誰かの妄想なのかも、よくよく読まないとはっきりしない。話の筋が五里霧中なままでも、個々の場面は抱腹絶倒のドタバタナンセンス劇なので、最初のうちは腹を抱えて面白おかしく読める。けれども、ふっと寒々しい滑稽さと悲惨さに襲われる一瞬が、必ずやってくる。それは、わけもわからず出撃に従事させられ、深く考えず、とにかく死にたくない楽しく生きたいというだけで足掻いていた主人公ヨッサリアンが、不意に悟る戦争の実像だとも言える。

この小説は一時期、本気で漫画化したいと思ってかなり真剣にコンテを描いたことがあります。イタタ。(結構真剣に漫画家になりたいと思っていた時期があったのだ)身のほど知らずもいいところ。でも映画化より漫画化したほうが、あの錯乱感、妄想感、ドタバタ感、そして霧が晴れるようなヨッサリアンの覚醒の鮮やかさが表現できると思う。誰かしてくれないかな。

実際、映画化はされたことがあってTVで観た記憶がありますが、印象に残ってないってことは……うーん。

今思ったけど、小林信彦の『ぼくたちの好きな戦争』ってちょっとこれとテイストが似てるかもしれない。どっちが先なんだろう。