『フーコーの振り子』 ウンベルト・エーコ/藤村昌昭 訳

この私は地球と、そしてサン・マルタン・デ・シャンやパリの町全体が私と、すべてのものが『振り子』の下で回転しているのであり、実際には『振り子』の振動面だってその方向を変えてはいないのだ。なぜなら、『振り子』を吊した糸を無限に延長したその先の、最も遠い銀河の彼方に、永遠に不動の<終止点(ピリオド)>があるからだ。
地球は回転していても、糸を結びつけたその場所は、宇宙に固定された唯一の点なのである。

(文春文庫版、p14)

「もちろんよ。理解するようなものは何もない、シナーキーというのは神だ、と答えればよかったのよ」
「神?」
「そうよ、わたしたちはね、この世が誤って偶然に生まれたという考えを素直に納得できないのよ。四元素が無茶をして、路面の濡れた高速道路でスリップして衝突しただけのことなのにね。だから、宇宙の陰謀のようなもの、神や天使や悪魔なんていうのを見つける必要があるのよ。シナーキーというのは、もっと縮小された次元で同じような機能を展開しているだけのことよ」
「じゃ何かい、僕は警部に、誰かが列車に爆弾を仕掛けるのは神を探しているからだと言えばよかったのかい?」
「そういうこと」

(同、p550)