『不在の騎士』 イタロ・カルヴィーノ/米川良夫 訳

「それじゃあ、シャルルマーニュの軍勢のなかには、かくかくしかじかの名前と肩書きを備えた騎士で、その上にすぐれた戦士、勇猛無類の大将でありながら、存在する必要なんかないってこともあるんですか?!」
「しいっ! そんなことは誰も言ってやしないぞ、シャルルマーニュの軍勢のなかには、かくかくしかじかってこともある、とはな。わしらはただこう言うだけだ、我々の隊にはかくかくしかじかの騎士がいるとな。ただそれだけのことだ。一般論として、どんなことが存在し得るか、あるいは存在し得ないかなどということは、我々には関係ないことだ。わかったな!」

河出文庫版、p27)

太字部分は本当は傍点です。