『パロマー』 イタロ・カルヴィーノ/和田忠彦 訳

誰も彼もが躍起になって意見やら判断やらを言い立てるのが御時世だという国にいるせいで、パロマー氏には、なにか主張する前に決まって三度、言葉をかみしめる習慣が身についてしまった。もし三度めに言葉を反芻する段になっても、今から自分の言おうとしていることに納得がいくようなら、それを口に出すし、でなければ黙っている。実際、それで何週間も何ヶ月もまるまる無言のまま過ごすこともある。

(岩波文庫版、p140)