太陽の塔

太陽の塔

「いちおうめでたいことではないか」
 私は言った。
「ありえねえよう。何かの間違いだよぅ」
 高藪は泣き声で言った。
「何言ってる。せっかくの好機を。これを逃すとあんた、もう本当にダメだぞ」
「だって、俺によぅ、女なんて、俺が好きなんて、自然の理に反してるよぅ」
 実際そうだと思ったが、私は敢えて彼を叱咤した。
「馬鹿。蓼喰う虫も好きずきって言うだろ」
「今も、今も、そこのドアの前にいるんだよう。怖い。怖いよぅ」
「どーんと行ってやれ。どーんと」
「ダメだ。三次元だぜ。立体的すぎる。生きてる。しかも動いてる」
「あたりまえだ。落ち着け。この先一生、二次元世界で生きるつもりか」

(p178-179)

以前の私なら不明にして気付き得なかったでしょうが、『喪男の哲学史』を読んだ今ならわかります。これは立派な喪男小説です。モテへの煩悩を滅却できない喪男のあがきを克明に記した涙もちょちょぎれる感動作でした。いやあ面白素晴らしかった。

…いかにあそこには司法試験の魔宮に迷い込んで半ば廃人と化している人間がうごうごしているとは言え、…

(p29)

ちなみに「うごうご」という擬態語は私が知る限り、内田百輭先生がエッセイで夏目漱石先生を描写した記述が初出だと思うのですが、こうやって文中で発見すると何となく同好の士を発見したようで嬉しくなります。うごうご。