旨いものはうまい

• 『旨いものはうまい』　吉田健一（グルメ文庫）

吉田健一も人様にお薦めされたのだが、うん、まあ、この人の趣味はちょっとアッパーで高尚すぎる。読んでいると庶民はいじけ出すので精神衛生上良くない。どうも小五月蝿くってすみません。
同じ食べ物のネタでも、英国のポーチドエッグは絶品だのウイスキーは下世話な酒だのという話より

自動車が麹町の電車通を横切るところで、検校は急に大きな声をして云つた。「さうさう、いつぞやのげろ以来でしたね。あの節はげろう失礼しました」私も慌てて挨拶した。「げろげろ御馳走様でした」

（内田百輭　『御馳走帖』より「検校の宴」、中公文庫版、p120）

みたいな話を読んでいるほうが楽しい。ちなみに検校というのは宮城道雄。まったく、日本を代表する琴の師匠のげろ話とか、自分の師匠で国民的大作家の鼻毛話だので原稿を埋めるのはこの人くらいなものだ。