いい子は家で

何日か前に読み終わってたけど、ずるずると感想書けずにいた。なんか最近、うまいこと言葉が出てこないんですよね。脳みそ疲弊してるのか。
ひとことで言うと、これってばホラーだと思いました。あるいは松尾スズキの言う、ぬるーい地獄。ティピカルな現代家族の光景を淡々と描くとホラーになるんですね。
例えば表題作。会社員の父と専業主婦の母と、息子二人。兄弟はどちらも成人し、昼間出かけるのにも彼女のマンションに泊まってくることにも、母親と近所に神経質なほど気を使う次男(主人公)はおそらくフリーターでさえないパラサイト、就職した兄も何の説明もなく会社を辞めて実家に舞い戻り、狭いながらも郊外に一軒家を獲得した父も定年退職して家にいる。ずっと主婦として家にいた母だけがこれまで通りのハイテンション(他の家族のテンションの低さと対比すると一種ハイと言えるだろう)で家事と家族の世話(介入的なほどの)をこなす。かくして我が家に結集した家族から生み出される日常と地続きの妄想。家族はそれぞれ互いの存在と現実に対して無反応になることで「穏やかな家庭」が維持される。
ユーモラスなんだけど、どこか不安。ずるずるあれよあれよの間にとんでもない妄想の世界に引きずり込まれる文章には脱帽。淡々とした奇天烈さが素晴らしいのは表題作だけど、一番怖かったのは『市街地の家』だった。だっていかにもどこの家でもありそうだもの、こういうこと。