パンズ・ラビリンスを観てきた。恵比寿ガーデンシネマ
傑作。重厚で緊張感のある映像が素晴らしい。映像の細部に気を取られて字幕を何回か読み落としたくらいで、全編スペイン語だからこれにはちょっと困りました(英語みたいに耳と目並行ってわけにいかないし)。結末は冒頭で暗示されるんだけど、そこまでもっていく間、絶え間なく緊張を強いる構成はえぐいくらいでした。
ところでプログラムを買ったら、どこぞのフランス文学の先生の解説が載ってたんですが、これが「大人のステージにたつための、少女のイニシエーションの物語」などとぶってあって、おおっとーとのけぞりました。この先生、映画をちゃんと観なかったんじゃないかしらん。これって、少女オフェリアが醜悪で残酷な大人の世界に対して、敢然と大人になる(現実に適応する或いは受け入れる)ことを拒否するって話でしょ? 大人にならないで魔法の国に帰ることは逃避ではなく、むしろ過酷な現実を前に勝ち取らなければならない戦いなわけです。
しかし一方で、魔法の世界も現実に劣らずグロテスクでそんなに良いものでもなさそうなところが、この映画全編に漂う陰鬱さなんでしょう。少なくとも私には、オフェリアが最後に辿り着いた輝く世界はそんなに良いものにも思われなかった。画面に満ちる金色も、オフェリアを迎える王と女王の王冠も、オフェリアが着る赤い上着と金色のドレスも、全部何となく薄っぺらく、高々と三つ並ぶ玉座はまるでゴルゴダの丘の十字架みたいに見えた。この重い絶望感たるや。