ずっとお城でくらしてる

  • 『ずっとお城でくらしてる』 シャーリイ・ジャクスン/市田泉 訳(創元推理文庫)(12/13)

表紙の女の子の絵(というか写真)を見て、裏表紙のあらすじを読んで、主人公のメリキャットは不思議の国のアリスくらいの年代なのかと思っていたら、なんと十八歳なのだった。それであの言動というのがまずグロテスク。おそらく彼女は六年前から時間が流れていないのだろう。そして幾分は正気を保っているように思われる姉のコニーの、周囲の環境に対する流しっぷり(流されっぷり)に切なくなる。
そう、これは実感として言うんだが、狂気は伝染るのだ。おかしな人の言動に日々接して、そのおかしな論理(一般常識とどれだけ乖離していようが、彼らの中では筋が通っているのだ)を当然のことのように開陳され、主張され、振りかざされ続けると、だんだんと自分のほうがおかしいんじゃないかと思われてくる。その伝染力から自分を守るにはひたすら相手を受け流すしかないのだが、それもまたおかしな論理が日常化していくことに繋がるのだ。そしてさらに恐ろしいことに、この状態で外界との接触を断ってしまうと、それはそれで殻の内部の人間には居心地の良い世界が出来上がるということもよくわかる。自分に都合の良い論理で閉じた世界には、抗いがたい魅力があるのだ。
解説の桜庭一樹の言う「虫唾の走るような不快感」だけを感じる人は、この小説に魅力は感じないだろうと思う。閉じた世界の蟲惑を感じ取る人こそが、この小説の読者になるんだろう。