死刑弁護人

光市母子殺害事件の被告人やオウム事件松本被告など、重犯罪事件の被告人の弁護を多く引き受けている弁護士の手記。死刑反対論者としても有名。著者のことは森達也の『死刑』を読んで知った。
光市母子殺害事件は、報道された事件の概要に対しては「極悪な」と思ったけれども、その後しきりにマスコミに登場し始めた被害者の夫の「死刑あるのみ」論調には違和感があった。特に「被害者のためにも死刑を望む」というあたり。それもあれだけ理路整然と一見冷静に話せる人から、感情に任せた発言ではなく出てくるあたり。
で、たまたまこの本絡みで調べてみたら、この被害者の夫氏、妻との間の手紙を公開した手記をすでに発表していて、しかもそれが2007年に映画化されていたんですね。邦画にあまり興味がない上、『天国からのラブレター』などというタイトルでは自分がまるっとスルーしたのも納得できますが……。個人的にはこういうタイプの人(自分語り的手記で近親者の手紙を無断で公開した上、それが映画になって平然たる人)には不信感があるし、こういう露出の強い人の発言主導で被告人や被告弁護人へのバッシングが過熱される状況はどうかと思う。
安田さんは被告人(被疑者又は加害者)の権利を最大限守り救済しようとしていて、それはすべきことだとは思うけれども、一方で、現状では被害者の救済はほとんどなされない状態で、結果それが司法判決に対して加害者への応報を強く求める感情に繋がっている気がする。
あと、安田さんが裁判中に使用している出廷ボイコットや途中退廷、弁護人選任・解任届を準備期間確保のために使うというようなやり方は、法廷闘争の手法としては効果的だし、違法でもなければ糾弾されるべきことでも何でもないんでしょうが、日本の一般的感覚(司法界もこういう点については一般大衆と感覚はほぼ一緒な気がする)からは受け入れられづらいんだろうと思う。