お行儀の悪い神々

  • 『お行儀の悪い神々』 マリー・フィリップス/青木千鶴 訳(早川書房

イギリス伝統のコミック・ノベルだった。楽しい。腹を抱えて大爆笑というのじゃないけど、ネタ元がわかる人ならぶぶぶぶ、と笑える。ヒーローがどうしようもなく野暮ったい男ってところがちょっと『銀河ヒッチハイク・ガイド』っぽい。本書の場合、ヒロインも負けず劣らず冴えないブリジット・ジョーンズ・もっと内気な大卒ワーキングプア版なんだけど。
かつて栄華を誇ったギリシャの神々は現代、ロンドンのボロ借家にひしめき合って暮らし、貧乏に負けていた……まずこれ、パリじゃなくてロンドンてとこが秀逸だ。パリだったらどれだけお馬鹿や破廉恥やっても、ああまあそーゆーのもいるよね、でスルーだけど、ロンドンだと住民と街そのものの常識レベルとリアリズムレベルが、古代から酒池肉林やってた神々の落ちぶれ加減とお行儀の悪さを際立たせる。貧乏にロマンはなく、ただ身も蓋もないシビアな現実だ。
加えて神々のキャラが最高。体育会系のアルテミス、脳味噌までリビドーで出来ているアポロン、軍事オタクのアレス、敬虔なキリスト信者のエロス。快楽主義者で四六時中テレフォン・セックスのバイトばかりしているアプロディテが最高に笑える。頭は良いけどコミュニケーション能力ゼロ、萌え系眼鏡っ娘のアテナも可愛い。このキャラ立ち加減で、ありがちな設定が実に新鮮。
後半の話のまとめ方はちょっと乱暴というかご都合主義と言えないこともないけど、あちこちにちりばめられた小ネタを楽しむべきでしょう。
これ、ドラマ化とかしたら最高に面白いんじゃないかな。