白い城/アスペルガー症候群

読み終わって呆然とする小説だった。書かれていることを理解したとは思えないけど(第一このタイトルの意味が読み終わってもわかっていない)、このぐらぐらするような読後感はすごい。
若いヴェネツィア人が海賊に襲われてオスマントルコに連れてこられ、奴隷として彼が師と呼ぶトルコ人の手に渡る。育った環境も文化も全く違うのに、容姿はそっくりな二人は、重力と反発力が均衡した状態で互いを追って回転し続ける双子星のように相聞を始める。主人公のヴェネツィア人にもトルコ人にも全く感情移入できないし、彼らの行動も心情も理解もできない。それでも二人の間に張り詰める緊張感に引き寄せられて最後まで読み通させる。
最後のページを読んだときには、終章で語り手の前に登場する客人と全く同じことをした。つまり、これまでに読んでいた本を引っくり返して、必死である記述を探した。ひっくり返ったと思っていた表裏が本当にひっくり返ったのか、そもそも表裏があったのか。がらがらと認識が崩壊した瞬間だった。東西は反発したのではなく、融合したのだと。

ごくごく初歩的な入門編にはいいかもしれないが、ちょっと誤解を招きそうな内容だと思った。あまりに病理を現象面で類型化しすぎというか。それと、あの人もこの人もアスペルガータイプ、って言ってしまうのはちょっと乱暴な気がする。細かく見ていくと、自分にも当てはまるところがあちこちにある。
こういうのは性格の問題と切り離せないから、周囲に実質的な被害や問題を与えているケースでなければ、わざわざアスペルガーですねって診断する必要はないと思う。あんまり安易に病気として診断しちゃうのは、逆に社会に受容性がないような気がするなあ。
とはいえ、紹介されている具体的な対処方法については、こういう病気に限らず子育てや対人関係に有効なアドバイスが多いと思った。