パクス・ロマーナ

カエサルの後継者アウグストゥスの巻。初代ローマ皇帝(自称はしてなかったようですが)。帝政期ローマの土台を作った人。
カエサルたんと全く正反対の人だなあ。能吏型というか。同じ頭の良さでも、帰納型のカエサルに対して演繹型というか。混沌とした世界から法則性を見出したのがカエサルで、見出された法則性を前提にそれを普遍化したのがアウグストゥス? 平時の政治家としては最高の人だろうと思う。ただ戦時には決して向かない。
端的に腹黒いです。アウグストゥス・フリークの友人が「顔と頭以外のスペックの低さ」という愛ゆえの名言を吐きましたが、いやその通りで…。まず小柄。そして虚弱。暑さにも寒さにも弱くて胃弱で下痢腹で不眠症気味で運動神経なし。軍才がないのはカエサル生前の段階で見抜かれてアグリッパをつけてもらった。挙句、文才もないなどと七生にまで書かれていて、こっちにはマエケナスがついている。でも人材を上手く使うことに関しては凄まじく上手い。アグリッパにせよマエケナスにせよ、献身的なまでに捧げ尽くさせたのは、この(ひょっとしたら戦略的な)駄目っぷりのせいなんじゃないのか。この人は生涯、「(カエサルの)子供」というイメージをよくも悪くも利用した人ですね。
ただ、こうまで利害に敏くて自己抑制ができている頭の良い人が、どうして徹底的に血統に拘ったのかがわからない。家族の縁薄い人のようだから、そのせいなのかな。でも血統主義というのは生物学的にも社会学的にも最悪の選択ですよな。差別の温床でもある。ローマが後数百年続く帝政期の土台を固めたと同時に、それを傾けた最初の一歩がこれだったんじゃないかと思う。