アプロネニア・アウィティアの柘植の板

どうにも途中で目が離せず、一日で一気に読みきった。ローマ帝政末期、キリスト教が燎原の炎のように帝国を揺るがしはじめた時期に生きた貴婦人の手記の体裁を取った小説。って今はわかっているけど、発表された当時は何なのこれ本物なの偽書なのって騒然となったらしい。手の込んだ作品。

作中にもあちこちの書評にも書かれるとおり、アプロネニアの手記は清少納言枕草子風。おそらくキニャールが影響を受けたんだろうと思われる。帝政末期の激動なぞにはつゆも触れず、ただよしなしごとを書き連ねてあるように見えて、消え行くキリスト教以前のローマの香りをまざまざと写し出して、その今日までに至る結果を知っている私たちに何とも言えない切なさを感じさせる。これ読んでると、当時の伝統的なローマ人の感覚からは、キリスト教ってとてつもない退行に見えたんだろうなと思う。

噂には聞いてたけど、キニャール、すごく面白い。この濃密にえろい雰囲気も好きだ。次は『音楽への憎しみ』に行こうと思ったら図書館に入ってなかったので、『アルブキウス』に行ってみる。

ところで高橋啓さんのブログ、消えちゃったの…? 悲しい。

追記:高橋啓さんのブログ、TLで教えていただきました。ありがとうございました。やっぱり移転されてたのね。(5/5)