『石の中の蜘蛛』 浅暮三文

 自分が誰であるのか、それは結局のところ本人しか知らないのだ。そしてそれを明かす気がないならば、それは沈黙の中にいつまでも沈んでいる。
 都市での生活では自分が誰であるかをいつでも捨て去ることができるのだ。いや、都市に存在するには、ある部分それを捨て去る必要があるのだ。