善き人のためのソナタ』を観てきた。いい映画でした。最近になってようやく『アドルフの画集』や『ヒトラー最期の12日間』で人間としてのヒトラーを描いた映画が出てきたように、『グッバイ・レーニン』に引き続き、壁が健在だった時代の東独を描いた映画もだんだんと出てくるようになりましたね。
社会主義体制下監視国家に身も心も捧げた男が、監視対象の人間達を「いいなあ」と思ってしまったことが全ての発端だ。でも体制を覆す根本的な力はこういう素朴な感情の積み重ねなんだろうな。冴えない風体で面白みも何もない体制に忠実に従う機械のようなシュタージの役人が、だんだんと自分自身の感情や意思を滲み出し始め、危ない橋を渡り始める姿は、見る側に絶えず手に汗を握る緊迫感を与えながらも感動的。それを直截的な台詞や心情の吐露はほとんどなしに描き出した監督と主演のウルリッヒ・ミューエは見事だった。
それにしてもドイツ人の合理主義ってのは凄いもんだと改めて思いましたことよ。町も建物の造りも、組織の作り方にしても、実にメカニカル。見てくれも身も蓋も度外視で機能と効率あるのみというのが徹底している。それが行き着くところまで行っちゃうとナチスとかシュタージとかになっちゃうのかね。