無国籍

  • 『無国籍』 陳天爾(新潮社)

このところ立て続けに旧陸軍出の人が書いた本(一応本人が書いて編集の手があまり入っていないとして)を2冊ばかり読んで、とにかく文章が上手いもんだと感心していた。主語と述語がはっきりしていて、いつ誰がどこで何をしたが明確、章の構成も整理されている。所謂5W1Hですね。美文とか名文とかいう種類のものではないけど、引き締まってテンポが良く読みやすい。
なもので、その後にこれを読むと、ゆるさが際立つ。何というか、中学生日記的というか、体当たりルポがそのまんま体当たり的に書かれているというか。テーマは十分以上に重いんですがね…。
著者は日本に移住した台湾人の両親のもとに生まれ、1972年の日中国交正常化によって在日中国人・台湾人に国籍の選択が迫られたときに、両親が中国国籍も日本国籍も拒否し無国籍を選択したために、長年日本に無国籍者として在住してきた人だそうです。その状況から考えると、相当な葛藤があった(今もあるに違いない)と思われるんですが、この本にはそのとき私は怒っただとか泣いただとかが、ただストレートに書いてあるだけで、どうにも表面的に感じられる。正直テレビドキュメンタリーのあらすじでも読んでいる気分になった。ひょっとして日本の一般読者を意識してわざとここまで平易に書いてるんだろうか。著者がしている活動はとても価値あるものだと思うだけに、勿体ないと思う。