パール判事

東京裁判で唯一、被告全員を無罪とする判決書を書いたインドの判事と、その判決書の内容を紹介する本。不勉強なもので、この判決書が右派の太平洋戦争を正当化する論議に援用されてたことを知りませんでした。普通に考えて、司法判断で有罪とされることと、道義的責任の有無ってことは別問題でしょう。凶悪犯罪を犯した犯人が時効まで逃げおおせたとしても、犯罪を犯したという事実も責任も消えない。著者はおそらくパール判決書の全体の文脈を無視し言葉尻だけを捕えて今更「先生が悪くないって言ったもん」みたいなことを言ってる右派への反論としてこの本を書いたんでしょう。確かにこういう本がないと、「先生が言ったもん」とか言われても判断のしようがないよね。
パール判事の判決は非常にクールで厳しいんだけども、やはり根底のところに宗教があって、理想主義だなと感じてしまう。ガンジーの非暴力は立派な精神だけど、世界中の人々がそれを実行できるとは思えない。だから性悪説に立脚した現実的な妥協もある程度はありだよねと思う。まあ今の日本は妥協するほどのポリシーがもともとないような動きをしているけれど。