虐殺器官

虐殺器官 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

またまた周回遅れの読書感想文。大体図書館の返却期限に追われて書くことになる。ってことは、以前ほど書かなきゃって意識がないのだな。自己顕示欲も枯れてくるか。
しかしこの本は今年のベスト5に間違いなく入る本です。この小説が何か賞を取らないのはおかしい。民兵を薬漬けにして自爆テロやらせるのも、先進国で兵士がPTSDにならないように戦闘カウンセリングを受けさせてから戦地にやるのも、虐殺を正当化するために自分を騙すことが目的だとして、では逆に全くの正気で、ある世界(それが自分の家族だってある国家だってイデオロギーだっていい)を守るために他を虐殺するのは、それよりマシなことなんだろうか。「自覚があるだけマシ」というのは、この世の地獄がよりはっきりと視えるというだけだ。平和の維持にも、ある種の理想主義とその平和によって得られる利益を想定する打算が必要で、それにも自己欺瞞が少なからず必要だと思うんだけど。
ところで作品にケチをつけるわけではないですが、この主人公はアメリカ人に思えませんでした。あまりに繊細過ぎて。ドミノ・ピザの永続性に疑問を持つアメリカ人がいるかな(笑)(偏見?) それと、主人公が最後に取る行動が、自分を愛してくれていると思っていた母が実は自分のことなどあまり気にかけていなかったとわかったことが引き金というのは、あまりにエディプス的。どんなに正気だと思ってたって、インプリントされた呪縛(遺伝子なのかミームなのか)からは逃れられないんだな。大体、正気ってどういうこと?



追記:日本SF大賞にノミネートされているのですね。
http://www.sfwj.or.jp/list.html
取るといいな。本作敵なしだと思うんだけど、どうも私の感覚と一般的な賞の基準はずれるからな。最相葉月が入ってるのが不思議。いくらSFが題材ったってこれノンフィクション(というか評伝)だろ。