• 『アース』(1/20)

六本木で観た。そうかなと思っていたけど、やっぱり温暖化啓蒙映画だったか。映画で環境保全を訴えるのはいいけど、そういうときに「このままだと絶滅しちゃいますー」と声高に言われるのが全部哺乳類か鳥類(それも比較的知能の高い)だってのがどうも気になる。昆虫とか爬虫類とか両生類とか魚類とかはどうでも良いのかと。こういうのにはまだまだ私たちが存在すら知らないものも、種類さえも同定されていないものも変種もごまんとあるだろうし、いまこの瞬間にも絶滅しているものがあったっておかしくないのにさ。少なくとも北極熊は人に知られているのだから、どうしても絶滅させたくなかったら日本のトキのように保護することだってできるのだ。こういう「クジラを守れ」系の短絡的な発想は好きじゃないな。映像が最高に美しく十分に物語るのだから、ナレーションは余計だと思った。

  • 『太陽』(1/26)

渋谷ユーロスペースソクーロフ監督。
公開時に行けなかったのだが、今ユーロスペースでのソクーロフ特集で上映していたので、頑張って早起きして行ったよ。ちなみに先週やってたショスタコーヴィチのドキュメンタリー『ヴィオラソナタ』も観に行きたかったけど、残業続きで無理だった。
現人神天皇の外界とのギャップと滑稽さを際立たせながらも、おそらくマッカーサーが感じたであろう「強い印象」を表現したイッセー尾形は素晴らしかった。そして、おそらくは皇居にいる誰よりも、御前会議の幕僚たちの誰よりも理知的で教養があり、状況を正しく判断している天皇が、彼を外界から隔離する沈黙と干渉と、圧倒的な退屈とに幾重にも取り巻かれている様子が延々と描かれて、どうにもやりきれない。人間宣言をしたあとの天皇の可愛らしいほどの嬉しそうな様子には観る方もほっと息が抜けるのだが、それに冷や水を掛ける侍従の報告は、これまで天皇制を維持してきたサイドから神を辞めた天皇への言外の非難にも思われた。いずれにせよ、天皇制というのは天皇や皇族本人にも、それ以外の人間にも犠牲の多い制度なんじゃないのかな。
ただ、私にはこれは少なくとも日本を舞台にした映画には見えなかった。というのが、景色がどうも終戦前後の日本じゃないのだ。最初は何が違和感あるのかわからなかったんだけど、皇居の外の廃墟の景色が出てきてわかった。まず、東京が焼け野原じゃなくて瓦礫の山だってところ。関東大震災東京大空襲の写真を見た記憶では、焼けた東京は一面まっ平らな焼け野原だったと思うのだが、この映画では太い柱の数階建ての建物の骨組みがあったり、でかい岩があったりする。そして景色全体がどうも寒々しい。もやがかかった薄暗い景色は、北海道か北陸あたりの秋冬頃のようなひんやりした感じだ。そう思ってみると、登場人物の服装も変なのだった。最後に登場する皇后はなんと帽子にコート、手袋までして完全に冬の服装なのだ。終戦前後なら、まだ日本は蒸し暑い夏だったろうに。
この映画は史実に題材を採ったフィクションでファンタジーなんだな。