私の男

図書館で長蛇の列を覚悟していたところ、職場の方に貸していただきました。実は桜庭作品は初めて。
右を見ても左を見ても絶賛の嵐のようですが、私は正直あんまり感心しなかった。インセストタブーを正面から描いたところが主に話題になっているようですが、インセストタブーの物語自体はあまり真新しいとも思えないし(それこそ小説より史実のほうが凄まじい例がいっぱいありそうだ)、北海道の片田舎、寂れた港町と暗い北の海とか、荒川べりのみすぼらしいアパートとか、舞台の道具立ては些か古めかしく感じる。「なんか演歌の世界みたい」というのが一番近い印象でしょうか。
ただ、その道具立てを使った冒頭から最後までのストーリーテリングと描写力は非常に鮮やか。少々大時代な舞台背景とか、リアルというよりむしろステレオタイプ気味な、実際にはありえないような登場人物たちの不自然な話し方とか、そういう小説的には微妙な部分も、すべてこの終章までの構成全体をじわじわと浮かび上がらせるように織り上げるための小道具として巧妙に利用されているように思います。まあ、そのやり方にちょっと、「はい、ここ伏線ですよー、よく覚えておいてね。テストに出るからね」みたいなわざとらしさを感じてしまうのも確かですけど。