ビール職人、美味いビールを語る/夢と魅惑の全体主義

キリンビールハートランド一番搾りなどのヒット商品を生み出したビール職人の、ほとんどインタビュー本のような体裁で、ノンフィクションライターとしてはあまりに手抜きじゃないかと思うけど、話の内容自体はとても面白い。八ヶ岳ブルーワリー行ってみたいな。

建築という観点から見た、ファシズム体制の比較論として面白かった。戦争中も占領国に資材を持ち込んで建築の意欲満々な土建国家ナチス・ドイツや、遺跡を破壊してまで都市整備に情熱を燃やしたムッソリーニ政権、「なんか古めかしくて威厳ある風」な建築ラッシュをもたらしたスターリン政権。いずれもイデオロギーと体制の力を見せ付けるために建築のアピール力を利用した例なのだが、ほぼ同時代の軍国日本だけは、戦時下にみずぼらしいバラック建築が蔓延りはじめるところが面白い。建築を「浪費」と見做し、総力戦のために資材を「節約」するという名分で、建築への鉄材の使用を制限しはじめたことで起きた現象だという。
日本の官憲がこうも建築や都市デザインに無関心なのは、日本人がそもそも家屋や建築に対して根本的に永続性を期待していない、というか永続性のあるものと捉えていないせいじゃないかという気がする。良い例が、神社の遷宮だと思う。神殿を他に移築することを前提に建築するような例は、世界に他にあるんだろうか。
例えばヒトラーは自分をバイエルン王国のルートヴィヒ二世(例のワーグナー狂いの建築オタク)になぞらえていて、自分が作った建築が後世に美しい廃墟として残存することを夢想したりする。もうはっきり言ってそのまんますぎでイタい人なのだが、こういう建築オタクは日本には育ちそうにない。廃墟の美学とも無縁だろう。古びてきたら適当に使えそうな資材をリサイクルして、新しいの建てちゃえばいいじゃん、というメンタリティ。究極のディスポーザル&リサイクル精神だ。地震国で木造建築がメインだったという要因があるにしても、それだけなのかな。