宮沢賢治殺人事件

いくつかの作品は好きだけど、作家本人の印象としては「なんだか薄気味悪い人だよなあ」だった宮沢賢治目から鱗の評論。ただ、神話と偶像の破壊を論の主目的にしているので、ちょっと論理展開が荒っぽい感じもする。あと著者独特の口語調文体(「でね…」とか「こ〜して」とか…)がちょっと気になった(読むにつれてだんだん慣れてはきたけど、あんまり好みではない)。
「世界ぜんたいが幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」(『農民芸術概論綱要』)というくだりは、この本で初めて知ったんですが、まあ如何にも「賢治が言いそう」ではあるけど、怖い一文だ。だってこれって全体主義じゃん。
一方で、被差別者としての賢治、遊民のバーチャルランドとしての作品世界、という視点は斬新だった。賢治と同様に貧しい農民・農村社会を美化しない著者の姿勢は、農村の実際の奇麗事でない側面を身を持って知っているが故なんだろう。しかし正直、肺病(結核)がそんなに排斥される対象だったとは知りませんでした。ということは、サナトリウム文学っていうのは、相当にファンタジーなジャンルなわけですね。