怖い絵/博物館の裏庭で

絵画の背景知識に乏しいのでとても面白かった。

そもそも一人称「あたし」の小説とは相性が悪いのだが、それを差し引いても傑作だということは認める。一族の年代記イングランドを舞台に女系中心に、ここまで豊かに語った作品はないのだろう。解説で訳者が言うように、この小説全体が主人公で語り手たるルビー・レノックスの存在証明であるからには、その語り口が、あたしがあたしがと自意識過剰になるのは必然とも言えるだろう。でも私個人的には、

あたしの送ってきた人生はまちがっていた! これはあたしの人生ではなかった――だれか他人の人生だ。あたしは一刻も早く、自分に合った人生を見つけたほうがいい。

(p450)

とか言うような女は嫌いなのだ。彼女の母や祖母や曾祖母の時代のように選択肢のない状況下でもなく、それを選択したのは自分自身だろうに。
あと、双子の姉妹に関する叙述トリックはトリックにならないくらい見え見えすぎて上手くない。