自壊する帝国

  • 『自壊する帝国』 佐藤優(新潮社)

うーん、やっぱり小説っぽい。解説で恩田陸が言うように、教養小説。少なくとも大宅賞の対象となるノンフィクションとは思えない。強いて言えば回想録?(後書きでご本人もそう仰ってますな)
うまいこと自分ヨイショ本である。これは褒め言葉で、大体、自伝や回想録なんて自分ヨイショ本に決まっている。問題はやり方で、色々と本筋を外れたエピソードを紹介して読者に(私のような「でソ連て何でなくなったんだっけ?」という程度の無学者にも)面白く読ませながら、自然にこの人スゴイと思わせる(書いてあることが全て本当なら本当に凄いのだが、書きたいこと、書けることだけを書くのが人間だ――第一、サーシャ・カザコフなる男は果たして実在の人物なのか?)テクニックは素晴らしい。もっと下手糞なのが巷にはごまんとある。
それと関連して、これは戦略的なのだろうけど、記述が大きくは年代を追いつつも、細かいところで行きつ戻りつして後年のエピソードや談話が挿入されたりして、事件全体の流れが先入観や予断抜きに(まあ厳密な意味で先入観や予断抜きってことは勿論ありえないんだけど)掴みにくい。
そして、どうも反ゴルバチョフの立場っぽい。上に書いたような時事問題の疎さなので、ゴルビーが実際のところどう評価されるべきかわかりませんが、少なくとも禁酒政策は一面間違ってなかったと思うなあ。どう考えてもロシア人は酒飲み過ぎだと思うね。