ランド 世界を支配した研究所

  • 『ランド 世界を支配した研究所』 アレックス・アベラ/牧野洋 訳(文藝春秋

原題はSoldiers of Reason, The RAND Corporation and the rise of the American Empire. 原題のほうが内容に即している。
そもそもコンサルタントというのは人の不幸を飯の種にしている職種で、ただ同種の生業の弁護士や医者と違うのは、手を下さず汚さず、言いっぱなしで口を拭えるというところだ。コンサルされる当人がさして気にしていないことでもコンサルタント自身の価値観に従って勝手に「問題」を見つけてくれて、その解決方法を「提言」してくれて、その結果の責任は取らない。どんなに綺麗事を並べても、それがコンサルの本質である。そのクライアントが国家、それも仮想敵国なしでは生きていけない少々パラノイアちっくな新興国家だった場合にどうなるかという壮大な一例と言える。
設立当初のランドの若い研究者たちに感じるのは、口ばかりうまい小賢しい餓鬼に対する腹立だしさだ。彼らの戦争に対する無邪気さ、無神経さに比べれば、ゴリゴリの旧人類、旧弊な前世紀の軍人体質のルメイ将軍がちょっと愛すべき頑固爺に思われてくるくらいだ(錯覚だろうけど)。ランドが成熟してくるにつれて、その職員たちには敬虔な信仰を説きながらも裏で私腹を肥やす宗教家のような印象がまとわりつく。
無邪気なハード信仰と、「人間は利己心でしか動かない」という法則を自己行為の正当化に使う独善性によって今日の星条旗の帝国があり、それが結局うまくいってないことは現在の状況を見ると明らかだろう。
帝国の追っ掛けも適当なところで流しとくべきだと思うけど、我が国はもっと笑えるというかお寒いというかな状況だしなあ。