レッドムーン・ショック

ソ連スプートニク打ち上げまでのドラマと、対するアメリカのパニック状態を活写したノンフィクション……と言っていいのかな。むしろエンタメ小説っぽいノリで、結構分厚い本だけど一気に読ませる。とか言って私は通勤時にだらだらと読んでたから2週間くらいかかったけど。
読んだ感想の第一は、ソ連アメリカもどっちもどっち、だ。第二次世界大戦終結時点でのロケット技術はドイツが最も進んでいて、アメリカとソ連は敗戦国ドイツを先を争って家捜しまくり、自国に技術者と資料を持ち帰った。キーとなる技術者(ナチス党員でもあった)をゲットできた点でアメリカが先んじていたはずだけど、人命が羽毛より軽い全体主義国家の怒涛の推進力で、結局ソ連人工衛星打ち上げの先陣を切ってしまう。
といっても、もともとソ連(というかフルシチョフ)が目指していたのは大陸間弾道ミサイルで、人工衛星の計画はその開発の行き詰まりを粉飾するために進められた、いわば余興だった。打ち上げた当初、フルシチョフでさえも、その人類史上の意義とアメリカに対するインパクトの大きさは全く認識していなかったらしい。
対するアメリカではスプートニクの一件はマスコミと次期政権を狙うリンドン・ジョンソンの勢力に煽られ、純粋に軍事・国防上の問題意識というより政治闘争のネタに使われた。むしろ兵器開発の実情を知っていて、最初の打ち上げが成功したからと言ってすぐさま軍事的に実用できるものではないと、結果的に正しい認識をしていたアイゼンハワー大統領は、その姿勢が「危機感がない」と批判されて急速に支持を失っていってしまう。
アメリカでのロケット開発の現場も空軍・陸軍・海軍が権力を争い、足を引っ張り合って一枚岩どころの話ではない。いやはや。
ところで、多数の登場人物たちの人物像も凄まじくキレた人々ばかりで面白いんですが、私はとりあえず、ルメイ将軍萌えでした。超タカ派イケイケ反共オヤジ。典型的な前世紀の遺物的軍人だ。実際いると迷惑だけど、はたから眺める分にはかなり笑える。あと、当時の国防長官とCIA長官だったダレス兄弟の写真も載っていたんですが、この人たち、禁酒法時代のマフィアみたいだ…。