エンジン・サマー/中世ヨーロッパを生きる

結末を読んでから冒頭を読み直すと、ああそういうことか、と腑に落ちる。全編まるごと伏線――作中で言う「蛇の手」――の塊、という構成はすごいと思うし、文明退行した世界を描く筆致は美しいけれども、どうもあまり好みに合わないテイストだった。ロマンティック過ぎるのよね。人間物語なしでは生きられないけれども、物語だけでも生きられないと思うのよね。このあたりがSF読みに向かない所以なんだろうな私。

入門書という体裁のせいか寄稿集になっていて、テーマが散漫とも言えるけど、まあ初心者には短くて読みやすい。フォークの誕生に関する論文が一番面白かった。古くから食べ物を切り分けるナイフだけで、大皿に盛った食べ物を直接手づかみで食べていたヨーロッパにおいて、食器先進国はパスタ食いのイタリアだったのでした。確かに熱々のパスタは手づかみでは食べづらいし、取り皿ないと辛いよね。周囲の国々では、フランスに至ってはルイ15世の時代くらいまで手づかみで食べていたらしい。や、野蛮人ども…!(笑)
今でこそ格式を誇りマナーに煩いフランス料理だけど、あの順番に料理をサーブするコース方式もロシア宮廷からの輸入なんだし、そんな大威張りするほど歴史があるものじゃないよね。