言葉の力

言葉の力 ヴァイツゼッカー演説集 (岩波現代文庫)

一民族全体に罪がある、もしくは無実である、というようなことはありません。罪といい無実といい、集団的ではなく個人的なものであります。

(p9)

政党の自画自賛は大した危険ではありません。むしろ、票が欲しいばかりにあまりにも多くの願望を同時に実現したいと願う場合こそ危険です。

(p65)

最初図書館で借りたけど、手元に欲しくなったので買いました。ヴァイツゼッカードイツ統一当時の西ドイツ大統領、統一ドイツ初代大統領。恥ずかしながら、ドイツに首相の他に大統領がいたのを初めて知りました。ほんと恥ずかしいな。
読むと、一つ一つの演説は結構長い。これだけの演説ができるというのも、それをきちんと聴く聴衆がいるというのも凄いと思う。ある程度文化的な土台の問題でしょうけど、日本の政治家や教育者など、いわゆるエスタブリッシュメントは、演説とか講演が下手だなと思う。一定レベルまでは訓練で何とかなるだろうから、教育課程でスピーチとかもやれば良いのにな。
ヴァイツゼッカーはドイツの立場をはっきりと「西側」と明示して、それでいて「東側」との架け橋であろうと言う。彼の東側に対する発言には率直な批判も多く、ここまで言っちゃってよかったのかな、と思うところも多々ある。そして、ドイツがまだWW2での惨禍を色濃く引きずっていた時代背景もあるのだろうが、ヨーロッパへの統合・融合を何度も強調している。ともすれば「ヨーロッパ」だけで凝り固まってしまっている感さえも、ちょっとだけ感じる。全体にキリスト教色が強いことも印象に残る。
とはいえ、彼の演説は過去への深い反省と同時に自国の復興に対する誇りと自信に満ち、かつ奢らない態度で、当時の聴衆はさぞや感動したことだろうと思う。自国にこういう政治家がいるというのは羨ましい。