母の発達

 とても素直な声で母は言った。
 ――生きたのがええ、お母さんごっこにはまってる馬鹿がええわ。

(p68)

 注―三重県人が大声を上げるのは人間を止める時だ。
 私の胸は使命感に溢れていた。母が育ててくれた恩を返すために、また人類の腐った家族制度を一新するために、私は女性で初めてのフランケンシュタイン博士となって自分のお母さんを製作しているのだ。

(p75)

母娘はもとより家族の確執を言葉で解体する魔術の書であった。もういちいち可笑しいんだが、同時に誰もがおそらくどこかに抱えている家族関係へのトラウマを抉る。一種の私小説であろうと思う。呪術師や魔術師が私小説を書いたらこうなるのではないかと。
もう言葉選びのセンスは、どうしてこうなるってくらいほんとに可笑しい。これだけでも保護価値のある作品である。