ドイツ現代史の正しい見方/ナポリの肖像

  • 『ドイツ現代史の正しい見方』 セバスチャン・ハフナー/瀬野文教 訳(草思社

『図説プロイセンの歴史』のハフナーさんの本。大まかな時系列順のテーマに沿った啓蒙的エッセイという感じなのだが、やっぱり全体にプロイセン好き好きフィルターが盛大に掛かっている模様。少なくとも、プロイセンが純粋理性国家(p39)っていうのは言いすぎじゃないだろうか。あとね…、”今日なお私たちを魅了してやまない古典的なプロイセンの姿、冷たく、青白く光る、揺るぎのない、厳格な中にも啓蒙された、進歩的で自由な精神のみなぎるあの理性の国…”(p48) …気持ちはわかるけど読んでて恥ずかしい(笑)!
紹介される個々のエピソードはすごく面白い。不愉快なことが身に迫ると死んだ振りをするバイエルン王ルートヴィヒ二世とか(p72)、ドイツ皇帝やだやだって駄々こねるヴィルヘルム一世とか、この二人の子守させられる苦労性のビスマルクたんとか。ドイツ帝国の建国日(ドイツ皇帝の戴冠日)が一月十八日なのは、初代プロイセン王の戴冠日に合わせたとか。
WW1のセダンの戦いであまりにキレイに勝ってしまったがゆえに、以降のドイツの戦争計画が「まずはフランスをぶちのめして凱歌をあげろ」になってしまったという説は乱暴すぎる気もするけど、何となく納得もできる。緒戦は勝つのに後は続かないっていうパターンもね。
「ドイツはなぜ間違ったか」の章で、その原因としてロマン主義の伝統を上げているのも面白い。ことはそう単純ではないとしても、ドイツ人から見たドイツ人気質はロマンチストという認識なんだってところが。確かにフランス人とかイタリア人は、普段ロマンロマン言ってても、身に危険が迫ってきたら一挙にリアリストに豹変しそうではある。

ナポリにとどまらず、南イタリアの歴史と風土を近代までざっくり概観できる。ローマ帝国ビザンツ・ローマ教会・イスラム帝国ランゴバルド・ノルマン・神聖ローマ・フランス・スペイン。近代までの南イタリアの利害関係者をざっと挙げただけでもこれだけあるという、恐ろしく複雑な歴史をかなりわかりやすく説明してくれている。
これを読む限り、現代の貧しく遅れた南イタリアを作り出したのは、長く続いたスペイン支配だったようだ。気候は温暖で土地は肥沃、シチリアなぞはローマ時代には本国への小麦供給地であり、東西の要衝として高い文化レベルを持っていたはずのナポリシチリアを弱体化させたのは、スペインの封建制支配だった。都市国家としての伝統が断ち切られ、重税を課されるのみで文化・産業振興策を打たれず、政情不安定だったせいで、都市としての自立性がなくなり、消費都市としてしか存続できなかった。
逆に、北イタリアのような都市国家の伝統がなくなっていたことで、統一国家を打ち立てようというリソルジメント運動は南イタリアから開始されたのかもしれない。

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付箋貼ったページメモ:30, 32, 36, 53, 59, 73, 93, 117, 140, 204

参考文献メモ:山辺規子『ノルマン騎士の地中海興亡史』(白水社)、高山博『神秘の中世王国――ヨーロッパ、ビザンツイスラム文化の十字路』(東京大学出版会)、マッシモ・モンタナーリ『ヨーロッパの食文化』(平凡社