海に帰る日/大転落

美しい……が、地味。この一言に尽きる。バーチウッドを読んだ後だけに。ただバーチウッドは若書きの作品で、少々技巧に走りすぎたきらいはあるのかもしれない。本作はバーチウッドから約三十年後の円熟期の作で、この渋みはまあそういうことなのかもしれない。
しかしブッカー賞を逃したThe Book of Evidenceのほうが遥かにえぐくて面白そうだ。翻訳出ないかなー出ないかなー。

文章は良質かもしれないが、こりゃー英国伝統のコミックノベルだよね。しかも結構えげつない。作者の確信犯ではない、無意識無反省の差別意識が露呈しているだけにえげつない。主人公ははっきり言って何も考えていない糠袋みたいな男だし、他に出てくる連中は上から下までどいつもこいつも狭量でケツの穴が小さい。唯一結構見込みのありそうなパブリック・スクールの悪ガキは十代半ばにして半アル中。ただひたすら、たはは、ひでえなあと半笑いになる小説であった。