侍女の物語/春にして君を離れ

侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)

フェミニズムディストピア小説という評価のようですが、女性の抑圧という側面より、そういった状況が全て宗教の名の下に行われているという点が言い様もなく不気味だった。この世界では、女性は「子供を生む機械」ですらない。本当に子供を生む機械ならば、人工授精したほうが確実なのだ。妊娠可能な女性が少ないにも拘わらず、母体を危険に晒してなおかつ成功率の低い、セックスによる妊娠にこだわる非合理性。女性ばかりでなく、男性も同じくらい別の側面では抑圧されている。それを宗教の下に正当化する体制の考え方が理解しがたい。

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

トラウマを抉る小説だ。抉るとわかっていたから避けていたし、覚悟して読んだけど、それでも抉られる。ロドニーは卑怯者だが、それでも彼のような父親を持ったジョーンの三人の子供が心の底から羨ましい。共感っていう言葉を安易に使いたくないけど、栗本薫の解説に共感する。それでも、欺瞞に生きる相手―自分でも他人でも―と対決するというのは、果てしなく疲労する空しい作業だ。この作業にはどこまで行っても勝利はなく、常にただ敗北だけがある