半ば忘れていたが、二度と同じ轍を踏まないよう記録しておく。
新国立劇場ドン・ジョヴァンニを観てきた(4/27)。指揮エンリケ・マッツオーラ、演出グリシャ・アサガロフ。再演公演。
ニコル・キャベルの歌が聴きたくて行ったんだが、今まで行った新国の公演で初めて休憩の間に帰りたくなった。演出が野暮いとか巨大な張りぼて人形に目を疑ったとか、まあそんなことはこの際いい。問題は、音楽が完全にイタリアオペラになっていたことだ。テンポは遅め、歌は随所にルバートがかかり、激しく伸び縮みする。少なくとも私には、どうしようもなく退屈なモーツァルトだった。テンポゆるめ音量抑え目の序曲が始まった段階で全くわくわくせず、いやーな予感がしたもんだが、これが的中。
大体ヴォルフィのオペラなんて、音楽さえテンポ良くやってれば演出は多少アレでも楽しく観られるものなのに、変に音楽でドラマチックさを出そうとしたのが良くない。しかもドン・ジョヴァンニなんて地獄落ちの場面以外は徹底的にコメディとして演らないと間が保ちやしないのに、痛い電波系ドンナ・アンナや、躁鬱気味で落ち着きのないドンナ・エルヴィーラをドシリアスにやられても全然面白くない。しかもドン・ジョヴァンニを完全な悪漢として描くにしても、あの言動は下品にすぎる。
悲劇として演出することは手法としてありだとは思うけど、コメディの要素のない悲劇はありえない。自業自得でない悲劇はありえないのだ。その自業自得部分をシニカルに描き出すのがモーツァルトのオペラの醍醐味だと思うんだけどなあ。
歌手陣は全く素晴らしく、特にレポレッロの平野さんなぞ最初日本人だと思っていなかったほど素晴らしい声質声量だっただけに、本当に勿体ないと思う。あれをもっとアップテンポでさくさくと、ドタバタにやってくれればどんなに楽しかったかと。
レポレッロが一人残る幕切れの演出は印象的だったけど、全体として新国の席は狭くて膝と尻が痛いという感想に尽きた残念さだった。でもこれが良いという人も沢山いるのね……終わった後はブラボーブラボーの嵐だったよ…。
大雑把なので普段は行った公演の指揮者や演出監督まで気にしてないんだが、ちょっと衝撃的すぎたので次回に地雷を避ける措置。ワインは不味かった銘柄だけを覚えるタイプです。