天使の分け前

天使の分け前』を観てきた。銀座テアトルシネマ。
暴力でしかものを言えなかった若者が、子供が出来たことで心機一転、自分の才能と頭脳で幸運を掴む古き良き物語だった。そこにはろくでなしと見捨てずに切っ掛けを与え、自分も昔に助けて貰ったのだから今度は自分が助ける番、と言う大人達がいる。一緒に旅する愚連隊の面々も実にろくでなしで実に阿呆でしかし可愛い。全編に響くスコットランド訛りは英語を話しているはずなのにあまりにアクセントが違って全く別言語に聞こえる。苔むしたような深緑の崖と丘陵が連なるハイランドの風景と、グラスゴーの下層住宅街の荒れた町並みとがすんなり切り替わって、主人公ロビーの住む現実を説得力を持って映し出す。「社会奉仕」をsocial pay-backと言うのだと知った。そして、「天使の分け前」はウィスキーの樽から自然に蒸発して減る分のことを言う。ロビー達も、大人達からのpay-backをばねに、天使の分け前をくすねて幸運を掴むのだ。伝統ある蒸留所の警備はあんなにゆるゆるなのかとか、あんなボトルに詰めたもんが高値で売れるのかとか、そもそもボトルは洗ったのかとか、細かいことは気にしない! ケン・ローチ監督は以前に観た麦の穂をゆらす風の重い作風が記憶に深かったけれども、これは後味の良いユーモアと愛情の感じられる作品だった。
銀座テアトルシネマはこの五月末で閉館。この映画の後にレイトショーでさよなら上映をしていた。今日は『トーク・トゥー・ハー』で結構な人が来てたわ。それほど熱心に通っていないからこう言うのもおこがましいが、小さい映画館がどんどんなくなっていくのは悲しい。