• 『日本精神分析』 柄谷行人文藝春秋
  • 『スパイのためのハンドブック』 ヴォルフガング・ロッツ/朝河伸英 訳(ハヤカワ文庫)


『日本精神分析』は例によって何故うちにあるのかわからない。読んでいてこう、えも言われぬ反感が湧き起こる本はニーチェ以来だ。そもそも初っ端のイントロダクションから



私は一度何かを書くと、それを続けて発展させるよりも忘れてしまう習癖があります。むしろ、書くということは書いたことを忘れるためだ、と考えているぐらいです。


などという言辞でカチーンと来る。それじゃあ何か。書きなぐった後は「記憶にございません」、言いっぱなしで責任は取らんってことか。いやしくも文筆業で食っている人間の台詞とは思えない。
講演集のはずなのに無闇と読みにくく、書いてある議論の是非はよくわからないものの、とにかくやたらとデリダだのソシュールだのラカンだのという舶来思想家を持ち上げ、自分以外の日本人批評家の名前を出すときはほぼ全て貶すとき、というやり方には好意的になりようがない。