美しすぎる母』を観ようとBunkamuraに行ったら時間を間違えていたことに気づき、急遽転進、向かいのシネアミューズで『世界で一番美しい夜』を観てきた。思わぬ拾い物。
古事記の国生み神話の換骨奪胎なのだが、異様な設定の中に見事に観客を引き込み笑わせ考えさせる映画だった。呼び文句の「誰も死なないテロ」の内容をばらすと一気にネタ割れなので書きませんが、しかし話の流れから想像はつき、つまりはフォークの魂として知られるあのフレーズが全編を通じたテーマで、そう言われると陳腐とも思われる落とし所をアイロニカルに提示する。そう、これ能天気な埋めよ殖やせよセックス万歳映画には思えなかったんですけど、勘繰り過ぎですか。
クライマックスのシーンは思わず『香水』と比較してしまった。『香水』が人間の理性や感情など哀しいほど動物的本能と五感の前には無力であり、人間として至上の感情とされる愛なるものも然りであると絶望的に喝破したのに対し、「欲望の水準を落とす」ことで世界に愛が満ち平和が到来するというテーゼもまた、きっつい皮肉である。つまり人間はバカなほうが幸せに生きられるってことでしょ? しかもそれ結構説得力あるところがまた悲しい。

ところでこれって文化庁支援なのですね。そう聞くとまた違う印象になるな。政策の一環だったりしたらちょっと怖い話だ。(いやいや勘繰り過ぎ?)