すっぴんは事件か?/ドールハウス

姫野カオルコにはデビュー作の『ひと呼んでミツコ』で一目惚れし、しばらくしてから『よるねこ』で惚れ直したのでした。ということを、たまたま書店でこの本を見かけて、図書館で借りて読んで(買えよ)思い出したんでした。この鳥頭! 鳥頭! 自分の好きなものくらい自分で把握しろ!
というわけで、突発的姫野カオルコ週間です。好きな作家はどんどんいなくなってしまう。いる間に追っ掛けないと。

この人ほど、一見軽い文体で、するすると読めて、でもずしんと重くボディーブローを食らう小説を書く人はいないと思う。名作という評判は学生時代から聞いていたにもかかわらず、何となく読んでいなかったんだけど、あの頃に読まなくて良かった。きっと表面的に読み飛ばしてお終いにするか、或いは距離を取れずに反発するか投げ出すかだったに違いない。作中の理加子の歳をすでに過ぎた今読むからこそ、「石の歳月」の重さが実感できるのだと思う。実を言うと、ちょっと泣きました。
作者の意図は文庫版あとがきに全部書かれていて、あまり言うこともないのだけど、ひとつだけ。「個」に圧し掛かる「家」がテーマとされているけど、ここで言う「家」とは家父長制で言う「家」ではなく、子供の成熟を阻む未熟な親のことである。実際、主人公・理加子の家は(内実はともかく外見的には)ごく平均的な、核家族の地方公務員の家庭だ。跡継ぎ嫁入りがどうのという制度としての「家」の重圧はなく(むしろ理加子は両親から、嫁になんか行くな、ずっと親と一緒にいろと言われる)、重圧は直接的に両親から加えられるのである。往々にして最も「個」を撲殺する要素は、最も近くにいる肉親である。それ以外にも、「個」を撲殺にかかるものはいろいろあるだろう。「個」は、そういったものから自分で守り抜き、勝ち取らなくてはいけない。理加子がそうしたように。
この本、読み終わって即、手元に置いておきたいと思ったけど、お約束のようにああ絶版。古本を探します。