ルネサンス 料理の饗宴

イタリア――という国はまだなかったからイタリア半島というべきか――が世界史上最も輝いていた時期は、間違いなくルネサンス期だろう。欧州の大部分の地域では獲ってきた獣を掻っ捌いて取り合えず串にでも通して焼くのみ、みたいな食生活を送っていた頃、イタリア半島ではハーブやスパイスを使い、パスタを作り、リゾットを作り、マジパンを作り、サラダを食べ、フリッターを食べ、野菜や果物のソースを添えて肉や魚を食べていた。貴族の大宴会は現代で言えばスターのコンサートに匹敵する一大スペクタクルで、料理は勿論イベントとしての趣向も凝らされ(ダンスやら音楽やら)、庶民が見物できるよう公開さえされていたという。食いすぎて死んだ奴までいたというから、さすがは酒池肉林のローマ人の末裔である。
その一方で、こういう狂乱を批判的に見て粗食を提唱する人もいて、ダ・ヴィンチはこちらのタイプだ。この本で紹介されているダ・ヴィンチの残した雨ニモマケズ健康版とも言うべき詩を読む限り、明らかに健康オタクである。どちらにしても両極端に振れているだけで、この時期のイタリア半島の人々が食に並々ならぬ関心を抱いていたことは確かだ。この本にはコラムがたくさん挿入されていて、当時の食に関する小ネタがいろいろ紹介されているけど、マカロニに寄せる歌だとかワインに寄せる歌だとか、そんなんばかりである。素敵。
現代のイタリア料理の基礎はほとんどこの時期に出来上がっているというのがすごい。反面、今ではイタリア料理の代表食材のようなトマトが普及するのがわりと遅かったのが意外。17世紀末の料理本に初めてトマトソースが載り、家庭料理にまで普及するのは18世紀末くらいだったらしい。例えばカポナータに相当する料理はルネサンス期からあったけど、トマトではなくアーモンドの粉を使っていたそうな。味の想像がつかないな……。
ところでこの本、下のカポナータもそうだけど、使えるレシピがいっぱい載っていて嬉しい。鶏肉の猟師風、ミネストローネ・トスカーノ、リーズィ・エ・ビーズィ(米と豆のリゾット)とか、やってみたい。