ウィーンの森バーデン劇場『ドン・ジョバンニ』

ウィーンの森バーデン劇場『ドン・ジョバンニ』を観て来た。川崎ミューザ。(9/26)
ドン・ジョバンニは通して観るの初めて。演出はオーソドックス、テンポ感はかなりオフビート(音楽のテンポはゆっくりめ、場面転換は結構ガタゴト音がして時間が掛かる)、と全体に野暮ったい印象だったけど、歌手陣は素晴らしい。特にドンナ・エルヴィッラとレポレッロの声がよかった。
オケは……ちょっと不安定な気がする。特に管楽器。オーボエのピッチの座り具合がどうも…と思ったの私だけでしょうか。
あとね、字幕は酷かった。あれは字幕って言わない。脚本あるんだから、ちゃんと訳してください。
しかし、ドン・ジョバンニって、最後の地獄に落ちるところ以外は徹底して軽薄に小者っぽくドタバタに演ったほうがいいと思うんですよね。真剣に悪人っぽくやるとどうも野暮ったくなる気がする。
大体、ドン・ジョバンニ以外の登場人物だって、みんな軽薄で自分勝手で頭悪いんですよね。一番の良識派だろうドンナ・エルヴィッラでさえ、一幕であんなに騙された騙されたって怒り狂いながら、二幕でころっとまたドン・ジョバンニに絆されて修道院を出てついて行っちゃったりする。こういう浅墓な人たち相手にやりたい放題やってたドン・ジョバンニが一転、人身御供的に断罪されて一人だけ地獄に落ちる。でも彼に騙されていた人々は次の瞬間からすぐ立ち直るんですね。絵に描いたようなダメ貴族に騙されていた人々は、この先も同じような別のダメ貴族に、性懲りもなくころっと騙されちゃったりするんだろうなあと思わせる。そういうシニカルさを、当時のもっと擦れたシニカルな人々は楽しんだんじゃないのかな。