魔笛 [DVD]
ケネス・ブラナーの『魔笛』。しばらく前に買い込んで積んでいたのを観た。
劇場で観たので二回目ですが、その間に近現代史の本をいろいろ読んだおかげで、この演出がまるまんまWW1の西部戦線を舞台にしているのがよくわかる。タミーノが最初に所属している部隊は英軍風、のどかな丘陵地帯にはジグザグの塹壕が築かれ、空にはぺらぺらの羽の双葉機が編隊を組んで飛び、ホイッスルの号令一下で塹壕から突撃が開始される。夜の女王はMk.I戦車に仁王立ちして登場。対するザラストロは難民キャンプの軍医。
全体主義的に服装も人種も統一されているっぽい女王陣営に対して、ザラストロ陣営は多民族多人種、服装もいささかラフで、難民たちは雑多ではあるけれどもヨーロッパ大陸のどこかにいそうな風体をしている。三人の侍女がタミーノに魔笛を渡すシーンは西部戦線のクリスマス休戦そのものだし、三人の童子の敬礼まで英国風。いやはや。実際のWW1とは比べようもないほど全体に小奇麗なのは、まあファンタジーということなんでしょう。
このバージョンの軍国主義的で狂暴で怖い女王様、最高。歌手としては、ああいう顔が写されるのは微妙なところなんでしょうけど。しかしこの女王・パミーナ・ザラストロの間の関係って、共依存と母子密着からの脱却としか思えんです(前にも書いたかもしれないけど)。パパゲーノの歌手さんのキャラクターもいい。歌のパートとして一番好きなのは実はパパゲーノです。こいつとパパゲーナだけ、本筋とほぼ無関係にバカップルやってて楽しいのだ。
なんにせよ、堪能しました。モーツァルトの音楽は本当に美しいな。英語の歌詞は今聴いても違和感全くなし。傑作な訳と思われます。