チボの狂宴

登場人物が多いのと人名が似通っているのと背景や歴史を知らないのとで大混乱するかと思ったら、それぞれのキャラがめちゃめちゃ立っているのと語りが上手いので全く無問題。ドミニカの独裁者トゥルヒーリョを描いた小説。史実でない創作部分も多いということだが、私の場合史実を知らないので、史実をベースにしたフィクションとして読んだ。
正直言って独裁者トゥルヒーリョは前立腺でものを考える小姑根性のナルシストで、さして興味を引かれない。むしろ彼の死後に八面六臂の活躍をするバラゲール大統領のカメレオンっぷりが面白い。ウラニアの話は読んでいるうちに真相になんとなく気づくんだが、その語り方が独特で面白い。話者や視点、会話や独白が文章の中でめまぐるしく入れ替わってフラッシュバック的効果がある。大部だけどすいすい読めるのはこの万華鏡的な文章のおかげだろう。
ラテンアメリカってどうしてこんなに独裁者が筍のようににょきにょき現れるんだろう……って、きっと当のラテンアメリカの人たちも思ってるんだろうな。そういう問題意識が書かせた作品なんだろうと思う。
読んでいて思ったのが、ラテンアメリカの人たち、特に支配階級や知識人階級の人たち(必然的に白人系が多い)の、欧州、特にスペイン、イタリアとの親和性だ。高等教育は欧州で受けているという人が圧倒的に多く、仕事でも生活でもあれほど離れた南米と欧州を行ったり来たりしている人が多い。とりあえず大学は欧州に行く、という感覚は、少なくとも北米にはなさそうだ。そこには旧宗主国と植民地の関係がまだ色濃く残っているというか、現実に旧宗主国が支配するわけではないけれど、その血を汲みその伝統を受け継いでいると自認自負する人たちが社会の上層を構成することで、植民地支配に近い感覚が残っていそうな気がする。さらに、キリスト教カトリックバチカンという、宗教上の繋がり。その反面、旧宗主国でありカトリックの本山たる欧州はすでに彼らの生活の基盤ではなく、帰属するのはラテンアメリカであるというアンビバレンツ。南米大陸は複雑だ。
同じネタだというガルシア=マルケスの『族長の秋』も読んでみたいけど、良く考えたらリョサの『緑の家』も買い込んで積んでいたんだった。